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※本記事は世界トップクラスの専門家ネットワークを活用して、深い地政学的リスク分析を提供するコンサルティング企業Wikistrat社CEOのオレン・ケスラー氏によるものです。Wikistrat社は組織における危機管理シミュレーションのサービスを提供しています。
リスクマネジメントだけではない、今求められるクライシスマネジメント
今日の複雑で不安定なグローバル環境において、組織は前例のない種類の危機に直面しています。ウクライナ戦争や2024年10月7日の攻撃に起因する中東紛争などの地政学的な混乱が、ビジネス環境を揺るがしています。国家間の関係が悪化する中で、企業・組織を妨害や情報操作キャンペーンの標的とし、物語(ナラティブ)を武器化して、評判や市場での地位を損なおうとするケースも増加しています。さらに、台湾情勢の緊張が高まる中、グローバルな貿易やテクノロジーの供給網に大きな影響を及ぼす可能性が高まっています。
これらの事例は、想定される危機に備えるリスクマネジメントだけではなく、予期できない危機に対応できる強固なクライシスマネジメント能力(危機管理能力)の緊急性を浮き彫りにしています。しかし、多くの組織は依然として準備不足の状態にあります。
ポストコロナ時代の課題:プラットフォームを超えたレジリエンスの構築
コロナ後の世界では、レジリエンス(回復力)とアジリティ(迅速性)の文化を育むことが、企業の新たな課題です。多くの企業がサプライチェーンを再編し、最先端のプラットフォームに投資するなど、技術的なソリューションを導入して混乱の影響を最小限に抑えようとしています。しかし、こうした取り組みでは人的要素、すなわち「危機時における意思決定」の重要性が見落とされがちです。
アリストテレスが「何かを実行するために必要なことは、実際にやってみることで学ぶ」と述べたように、経験からの学びが不可欠です。
Wikistratは、お客様の支援を行う中で組織のクライシスマネジメントにおける理想と現実のギャップを目の当たりにしてきました。多くの組織はインフラに多大なリソースを投入する一方で、リーダーが緊急時に適切な判断を下すためのトレーニングを十分に行っていません。この見落としにより、組織は外部からの危機だけでなく、危機発生時の内部の非効率性にも弱点を抱えています。こうしたギャップを埋めるために、クライシスマネジメント・シミュレーション(危機管理シミュレーション)は不可欠なツールです。
危機を認識する力:効果的なマネジメントの第一歩
クライシスマネジメントにおける最大の課題の一つは、「危機に気づくこと」です。多くの場合、危機は曖昧な兆候や微妙な変化として現れ、それが日常的な問題として見過ごされることがあります。この初期警告サインを見逃すと、重要な意思決定が遅れ、危機の影響がさらに深刻化します。
クライシスマネジメント・シミュレーション(危機管理シミュレーション)は、リーダーがこうした初期の兆候を見極める力を養うためのトレーニングを提供します。リアルな高いプレッシャーがかかる環境を再現し、参加者がパターンを検出し、データを正確に解釈し、適時に意思決定を下す能力を磨くことができます。
しかし、危機を認識する上での大きな障壁となるのが「認知バイアス」です。意思決定者は無意識のうちに過去の経験に頼り、古いパターンを新しい状況に適用しようとし、誤った判断や行動の遅れを招くことがあります。シミュレーションは、こうした認知バイアスを克服するため多様なシナリオを通じて柔軟で批判的な思考を養います。このアプローチにより、意思決定者は即断即決を行う能力を身につけ、潜在的な弱点を戦略的な強みに変えることができます。
危機の中でチャンスを見つける
イギリスの元首相ウィンストン・チャーチルが「危機を無駄にするな」と有名な言葉を残したように、どの危機にも必ず新たなチャンスが潜んでいます。Wikistratでは、クライシスマネジメント・シミュレーション(危機管理シミュレーション)に「レッドチーム」という手法を取り入れています。この方法では、危機対応チームとは独立したチームを編成し、有事の混乱の中で新しい可能性を見出すことに特化します。
危機対応チームが即時の課題に対応する一方で、レッドチームはプレッシャーを受けずに新しい視点を得ることに専念します。
この手法を有効に活用するためには、従来の直感に逆らう新しい思考プロセスを養う訓練を行う必要があります。レッドチームの実践には、危機中に集中を一元化する本能に逆らう姿勢を育むことが求められます。このようなシナリオを制御された環境でシミュレーションすることで、参加者は自信とスキルを磨き、現実の危機においてレッドチームの洞察を活用する準備を整えます。
Wikistratでは、このような訓練が組織の回復力を高めるだけでなく、創造性や適応力を育む文化を促進することの重要性を強調しています。これにより、潜在的な脅威を成長の機会に変えることが可能になります。
クライシスマネジメント・シミュレーションを通じた人材の発見と育成
クライシスマネジメント・シミュレーションは、単なる理論的な計画にとどまりません。リーダーたちを高いプレッシャーがかかる状況下に置くことで、準備不足を明らかにし、重要なスキルを磨く場を提供します。また、シミュレーションはリーダー個人やチームのパフォーマンスを評価するうえでも重要な役割を果たします。特に、プレッシャー下で冷静に行動し、的確に判断を下せる人材を発掘するための貴重な手段です。作家オースン・スコット・カードが「訓練の本質とは、リスクのない環境で失敗を経験することである」と述べたように、クライシスマネジメント・シミュレーションは、リスクを伴わない環境で試行錯誤する機会を提供します。Wikistratは、クライアントと緊密に連携し、危機に強いリーダーを発見して重要な役割に配置することで、組織の成功を後押しします。
事後分析(ポストモーテム)の役割
効果的な危機管理トレーニングの基盤となるのは「事後分析(ポストモーテム)」です。これはシミュレーションから得られた教訓を体系的にレビューし、実用的な改善項目に結びつけるプロセスです。Wikistratでは、事後分析を以下の3つのレベルで実施します:
- 個人レベル:
リスク許容度、意思決定バイアス、プレッシャー下での適応性を評価する。 - チームレベル:
コミュニケーション、透明性、情報の流れを評価する。 - 組織レベル:
能力のギャップを特定し、危機検知メカニズムを改善し、全体的な準備態勢を強化する。
この多層的なアプローチにより、シミュレーションで得られた洞察を持続的な改善へとつなげることができます。Wikistratのクライアントからは、この反復プロセスが脆弱性を強みに変え、次なる危機に備える上で非常に価値があると高く評価されています。
新たな現実に対応するための新しいアプローチ
現代の危機環境に対応するには、テクノロジーやサプライチェーンの最適化だけでは十分です。必要なのは人材への投資――不確実な状況を自信を持って乗り越えることができるリーダーやチームを育てることです。クライシスマネジメント・シミュレーションは、予測不能な世界で成功を目指す組織にとって不可欠な取り組みです。
混乱が続く世界で予測不可能な事態に備える最善の方法は、それをシミュレーションすることです。リーダーとしての責任は、組織が次に来る事態に備えられるようにすることです。ベンジャミン・フランクリンの言葉にあるように、「準備を怠ることは、失敗の準備をしているのと同じ」なのです。
著者:Oren Kesler(オレン・ケスラー)
Wikistrat社CEO。イスラエル軍および国防省の元将校であり、テルアビブ大学で
戦略と国際関係の修士号を、スペインのIESEビジネススクールでMBAを取得して
います。
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