
2026年4月以降、公開された人工知能(AI)および大規模言語モデル(LLM)インフラや周辺アプリケーションを標的とする新しいマルウェア「PoeLLM」を用いたサイバー攻撃キャンペーン(コードネーム:Canto Incognito)が観測されています。
本キャンペーンの主たる目的は金銭的利得(暗号資産の不法採掘/クリプトジャッキング)です。
攻撃者は公開サーバの既知の脆弱性を悪用して侵入し、高性能なGPU/CPU計算リソースを占有して暗号通貨(XMRig、Iron等)のマイニングを行うほか、感染したサーバを新たな脆弱性スキャナーへと転用してボットネットの拡大を図っています。
これまでに米国および西欧を中心に3,400台以上のサーバが感染被害に遭っており、ピーク時の2026年6月中旬には1日あたり約800台の感染サーバがアクティブに活動していました(なお、本レポートの公開に伴い調査機関Black Lotus LabsによりC2通信の遮断処置が講じられています)。
特徴的な部分をみてみましょう。
- AI・LLM関連インフラを重点的に標的化
従来のサーバ群だけでなく、急速に普及しているAI/LLM連携基盤(LiteLLM、Ollama)や開発ツール(Gitea)、PDF変換API(Gotenberg)、ネットワーク境界機器(Ivanti Sentry)など、インターネットに直接公開されているサービスが重点的に狙われています。
AIインフラは高度な計算資源(強力なGPU等)を備えているため、クリプトマイニング攻撃者にとって非常に魅力的な標的となっています。 - GitHub上の「詩」を利用したC2アドレスの動的導出(隠蔽技術)
本マルウェアの最も特徴的な点は、C2(指令サーバ)のIPアドレスの指定方法です。
攻撃者はGitHubのリポジトリ(nodejs.orgのフォーク)内に設置した「インターネットに関する詩(On the Nature of Connection)」を利用します。- マルウェアは詩のテキストから特定のルール(特定の文字列間に挟まれた単語など)に基づいて4つの単語/フレーズを動的に抽出します。
- 抽出した単語を自身の内部辞書で対応する数値に変換し、それらを組み合わせることでC2サーバのIPv4アドレス(例: 92.119.165.74)を計算・算出します。
- C2サーバを変更・移転する際、攻撃者はGitHub上の詩の単語を数文字書き換えるだけで済むため、検知や検閲を回避しながら持続的にボットへ指令を出し続けることが可能です。
- 感染サーバの自律的な「スキャナー化」とボットネット拡大
PoeLLMは単にマイナーを常駐させるだけでなく、感染させたサーバを新たな攻撃拠点(スキャナーおよび攻撃プロキシ)として悪用します。
被害サーバから同一ネットワークや外部の脆弱なポートへ自動的にリクエストを送信させることで、ネズミ算式に感染被害範囲(ボットネット)を拡大させています。 - エッジデバイスや既知脆弱性の再利用
調査の契機となったIvanti Sentryの脆弱性(CVE-2026-10520など)をはじめ、境界防御機器や管理インターフェースの脆弱性を足がかりにして侵入します。
また、近年増加傾向にあるルーター等のネットワーク機器の悪用・転用手法も併用されています。
「PoeLLM」による一連の攻撃は、急速に展開されたAI/LLM関連インフラがセキュリティ監視の盲点となり、攻撃者の格好の標的になっている現実を浮き彫りにしました。
特に計算能力が高いAI用ハードウェアは、金銭目的の攻撃者にとって極めて価値が高いリソースです。
推奨される対策はこうです。
- AI/LLM関連サービスの露呈確認とアクセス制限
LiteLLM、Ollama、Gotenberg などのサービスを不要にインターネットへ直接公開していないか確認し、VPNや厳格なアクセス制御(IP制限・認証)の背後に配置する。 - 脆弱性管理とパッチ適用
境界機器(Ivanti Sentry等)および利用中のOSS/コンテナイメージの脆弱性情報を定期的に監視し、修正パッチを速やかに適用する。 - 外部通信および不審なプロセスの監視
暗号通貨マイニングプール(例: Kryptex 関連IP)への不審なアウトバウンド通信や、CPU/GPUリソースの異常な高負荷プロセス(XMRig、Iron等)を監視・防御ルール(IOC)に追加する。
Canto incognito: tracking the PoeLLM malware
https://www.lumen.com/blog/en-us/canto-incognito-tracking-the-poellm-malware
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