
Darktraceのセキュリティ研究チームは、Discordをコマンド&コントロール(C2)サーバとして悪用する新しいRust製RAT(Remote Access Trojan)「CikaBika Bot」の感染キャンペーンに関するレポートを公開しました。
この攻撃手法は、フランス語のプロジェクト提案書に偽装したディスクイメージ(Proposition_Projet.img)を侵入の起点とします。
難読化されたPowerShellスクリプトとNim言語製のローダーを経由し、最終的にRust製のRATを展開します。
攻撃者はDiscordの専用チャンネルをデバイスごとに割り当てることで、C2インフラを自前で保持することなく、リモートコマンド実行、端末情報の収集、ファイルのアップロード・ダウンロードなどをインタラクティブに実行します。
特徴的な部分をみてみましょう。
- フィッシング誘導(PDFとショートカットの複合手法)
- 仕組み
攻撃者は .img ディスクイメージ内に、Word文書に偽装したショートカットファイル(Proposition_Projet_Personnalisable.docx.lnk)と、フランス語のPDF文書(Presentation_Generale.pdf.pdf)を配置します。 - 詳細
ユーザがショートカットを開くと、バックグラウンドで非表示のPowerShellプロセスが立ち上がると同時に、おとり(Decoy)としてPDFが表示されます。
このPDFの内部にはバイトデータとして暗号化された本体が埋め込まれており、PowerShellが特定のオフセット(239 / 0x20)の値をXORキーとして解読し、一時フォルダ(%TEMP%)へペイロードを展開・実行します。
- 仕組み
- Nim言語製ローダー(多段展開と難読化)
- 仕組み
展開された初期ペイロード(IfyuUapz.txt)は、近年マルウェアで採用例が増えているNim言語で記述されたローダーです。 - 詳細
ローダー内にはBase64でエンコードされた2つのデータ(Rust製DLLと配置用PowerShellスクリプト)が保持されています。
Nimローダーは自身の関数(loadLib)や regsvr32.exe を用いてDLLの読込・実行を試みます。
- 仕組み
- UACバイパスとバイパス補助(computerdefaults.exe の悪用)
- 仕組み
権限昇格の警告(UAC)を回避し、保護されたシステムディレクトリへファイルを書き込むためにWindowsの標準機能を悪用します。 - 詳細
PowerShellスクリプトは、レジストリ(HKCU\Software\Classes\ms-settings\shell\open\command)を改ざんした上で computerdefaults.exe を実行し、管理者権限のダイアログを出さずにDLLをMicrosoft Edgeのフォルダへコピーします。
また、この際に画面上に表示される設定ウィンドウ等を非表示(ShowWindow)にするために、C#製の簡易コードを動的コンパイルして実行・隠蔽を徹底しています。
- 仕組み
- DLL Search-Order Hijacking(Microsoft Edgeの検索順序悪用)
- 仕組み
Microsoft Edge(msedge.exe)が起動時に dbghelp.dll を遅延読み込み(Delay-load)する仕様を悪用します。 - 詳細
攻撃者は正規のEdgeインストール先(C:\Program Files (x86)\Microsoft\Edge\Application\)に悪意ある dbghelp.dll を配置し、Edgeのプロセスとしてマルウェアを実行させようと試みます。 - 注記事項
Darktraceの分析によると、この悪意あるDLLはEdgeが要求するすべてのエクスポート関数を満たしていないため、実際の環境によっては互換性エラーとなり、完璧には動作しない(サイドローディングに失敗する)可能性があると指摘されています。
- 仕組み
- Discordを用いたC2制御とWebカメラ/画面監視
- 仕組み
攻撃者は独自のC2サーバを構築・維持せず、メッセージングアプリ「Discord」のAPIを操作チャネルとして悪用します。 - 詳細
感染後、BOTはパブリックIP(ipify.com経由)やシステム情報を取得し、感染端末ごとに個別のDiscordチャンネルを作成して登録します。
攻撃者はチャネル内で特定のコマンド(!shell,upload,
src,
stream など)を送信することで、ターゲット端末のシェル操作、ファイル送受信、スクリーンショット取得、カメラ映像・画面のストリーミング配信などをリモート操作します。
- 仕組み
- ngrokを利用したデータ窃取(Exfiltration)
- 仕組み
大容量データの持ち出しや通信の流出検知を回避するため、トンネリングサービス「ngrok」を併用します。
ngrokは本来、ローカル環境を外部に公開するための正規ツールですが、攻撃者はファイアウォールやルーターの制限を回避して社内端末からデータを外部へ持ち出すためにこれを悪用しています。 - 詳細
端末内の特定フォルダをZIP圧縮した上で、ngrokを介して外部へと転送(窃取)する挙動が観察されています。
Discordを対話型コマンドの送信に使い、大容量データの持ち出しにはngrokを使い分けることで、効率的かつ検知されにくいデータ送出を行っています。
- 仕組み
CikaBika Botの事例は、既存の正規サービスや標準機能を巧みに組み合わせた現代的なサイバー攻撃の典型例です。
- 検知の難しさ
C2に正規サービスであるDiscordやngrokを使用し、プロセス隠蔽にMicrosoft EdgeやWindows標準コマンド(computerdefaults.exe)を利用しているため、従来の「不正なIP/ドメイン」ベースのブロックだけでは防ぐことが難しくなっています。 - 防御のポイント
単一のファイル名やハッシュ値(IoC)のみに依存せず、「LNKファイル起動後の異常なPowerShell実行」「一時フォルダからの不審な実行ファイル作成」「Edgeディレクトリへの異常なファイル書き込み(dbghelp.dll)」「エンドポイントからDiscord/ngrokへの予期せぬ通信」といった、一連の攻撃プロセス(ふるまい)を相関的に検知・防御する体制を整えることが推奨されます。
CikaBika Bot: Inside a Discord RAT
https://www.darktrace.com/blog/cikabika-bot-inside-a-discord-rat
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