
Pass-ta-keyは、同期型パスキーの仕組みをターゲットにした新しい攻撃パラダイム手法です。
同期型パスキー(Synced Passkey)とは、公開鍵暗号技術に基づいたパスワードレス認証情報(パスキー)を、クラウドエコシステム(Googleパスワードマネージャー、iCloudキーチェーン、1Passwordなど)を通じて複数の端末間で安全にバックアップ・共有(同期)できるようにした仕組みのことです。
安全のための機構も次々に登場してきますが、こういった機構も次第に脅威アクターのターゲットとなっていきます。
Pass-ta-keyとは、どんなものなのでしょうか。
パスキー(Passkey)はフィッシングやパスワード強奪に強く、安全な認証手段として普及が進んでいます。
しかし最近の調査では、感染端末上のマルウェアが同期型パスキー(Google Password Manager / Chrome)のバックエンド処理や信頼モデルの隙を突き、ユーザの同意なしにアカウントを乗っ取る新たな攻撃手法の実証結果(PoC)が報告されています。
研究チームはこの攻撃手法群を 「Pass-ta-key(パスタキー)」 と命名しています。
- 前提条件と偵察段階(Stage Zero)
- 感染の前提: 端末(Windows + TPM搭載環境)に一般権限(特権昇格不要)のマルウェアが侵入していることが前提です。
- ローカル情報の奪取: Chromeは同期データ(パスキーのメタデータ等)を Sync Data\LevelDB に保持しています。マルウェアはこのデータを閲覧し、被害者がどのサービスでパスキーを使用しているかを特定します。
- 3つの攻撃手法
- Pass-ta-key 攻撃(デバイス識別キーのなりすまし)
- 概要: 感染端末上のマルウェアが、ChromeのフリをしてGoogle Cloud Authenticator(クラウド認証基盤)に署名リクエストを送る攻撃。
- 仕組み: Chromeは端末のTPMを利用してデバイス識別キー(Identity Key)を生成・使用します。マルウェアはローカルストレージやメモリからこの暗号化用キー(wrapped_identity_private_key)を抽出し、標準のWindows API(CNG)を呼び出すことで、管理者権限も画面ロック解除(生体認証等)もなしで不正に署名を生成します。
- 結果: クラウド側は「信頼された端末からの正規要求」と判定して認証トークンを発行するため、ユーザーの同意操作なしでアカウントが乗っ取られます。
- Silver Pass-ta-key 攻撃(ユーザー検証の迂回)
- 概要: クラウド認証基盤に対し、「ユーザーが生体認証やPINで画面ロックを解除した」と誤認させる攻撃。
- 仕組み: Google Cloud Authenticator が保持する状態推移や認証フラグの処理ロジックを攻撃者が偽装します。
- 結果: 実際の認証時には被害者の端末すら操作することなく、リモートから認証をバイパスしてフルアクセス権を取得します。
- Golden Pass-ta-key 攻撃(同期パスキー秘密鍵の全抽出)
- 概要: クラウドに同期されているユーザーのすべてのパスキー秘密鍵を抽出・出力する攻撃。
- 結果: 抽出された秘密鍵はポータブルな形式で持ち出せるため、闇市場(ダークウェブ)での販売や攻撃者間での共有が可能になってしまいます(パスキーの「複製・共有不能」という前提の崩壊)。
- Pass-ta-key 攻撃(デバイス識別キーのなりすまし)
- 破られた「パスキーの3大前提」
従来のパスキー安全モデルが前提としていた以下3つの仕様が、クライアント実装とクラウド基盤の隙によって無効化されることが実証されました。- ユーザの存在確認 (User Presence): 端末上での 明示的な同意操作が必要 ➔ 同意なしで認証可能
- ユーザの検証 (User Verification): 多要素認証のための生体認証・ロック解除が必要 ➔ 生体認証なしで迂回可能
- 複製不可 (Non-shareable): 秘密鍵の抽出・共有は不可能 ➔ 全抽出して売買可能
この攻撃手法は、「単一のプログラムバグ」ではなく「クライアント(Chrome)の鍵管理」と「クラウド認証基盤(Google Authenticator)」の仕様・相互作用の隙を突いたものです。
このため、なにか公開しているアプリの更新版を提供すればよいとかいうことではなく、多層的な修正が必要なものとなっています。
現在、いくつかの対応が進んでいるところとなっています。
サーバ(Relying Party)やクラウド認証基盤側で、単にデバイスの存在(User Presence)だけでなく、実際に生体認証やPIN入力などのユーザー検証が行われたかを示す状態・署名チェックをより厳格化するアップデートを実施するといったUser Verification (UV) フラグの検証強化の取り組みが進められています。
Windows の API (CNG/TPM) を利用する際、非管理者権限のマルウェアが簡単に暗号キー(wrapped_identity_private_key)を取り出して再署名できないよう、メモリ分離や鍵バインドの処理構造の見直しといったローカル鍵・トークン管理の保護強化の取り組みが進められています。
しかし、です。
この脅威を防ぐには、ユーザ側の防御が重要なものとなります。
Google側で認証ロジックやChromeの鍵管理が改修されたとしても、「PCがすでにマルウェア(Poison/Stealer等)に感染している」という根本原因まではGoogleの仕様変更だけでは防げません。
対策の最後の砦は自分自身です。
Pass the Passkey: A Novel Attack Surface in Passwordless Authentication
https://unit42.paloaltonetworks.com/passwordless-authentication-security-risks/
※ほぼこもは8/5~8/10までお休みです。再開は8/12以降です。
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